「Excelの作業、AIにマクロを書かせれば楽になりますよね?」
ChatGPTやClaudeを使い始めた会社で、よく聞かれることです。毎月の集計、転記、帳票づくり。Excelで手を動かしている作業を、AIに書いてもらったマクロで自動にできないか。
マクロは、AIに頼めば作れます。ただ、社員の何人もが毎月触るような表なら、AXパートナーはマクロで補強するより、Excelで手を動かす作業そのものをなくすことをおすすめしています。入力と更新を業務アプリに移して、Excelは結果を見る・渡すための形として残します。
理由は2つです。アプリなら、間違ってセルを消すことがありません。そして、間違いにその場で気づけます。この記事では、AIでマクロを作る流れを確かめたうえで、何人もが使う表をアプリに移すときの考え方を書きます。
ChatGPTやClaudeで、Excelのマクロ(VBA)は作れる
まず、できることから書きます。ChatGPTやClaudeに「A列の日付ごとに、B列の金額を別のシートに合計したい」のように、やりたい作業をそのまま伝えると、マクロ(VBAのコード)が出てきます。それをExcelのマクロの画面に貼り付けて、マクロ付きのファイル(.xlsm)として保存すれば動きます。エラーが出たら、そのエラーの文と、どの操作で出たかをAIに見せると直した版を返してくれます。頼むときは、表そのものは貼らず、列の名前と、作り物の数行だけを見せれば十分です。取引先の名前や社員の個人情報は入れません(決め方は生成AIの社内ルールの記事に書きました)。
ただし、AIが出したマクロは、いきなり本番のファイルでは動かしません。まず元のファイルをコピーして、コピーのほうで試します。消えてはいけない行や列が残っているか、集計の結果が手で計算したものと合うかを確かめてから使います。マクロで消したり書き換えたりしたものは、元に戻す操作で戻らないからです。
1人で、1回だけ使う整形や集計なら、これで十分です。たとえば、取引先から届いた表の並びを一度だけ揃えるような作業です。
この記事で話しているのは、そうではない表です。何人もが入力して、毎月(あるいは毎日)使い続ける表。勤怠、見積、受発注、在庫、日報。会社の仕事の中心にある表ほど、マクロを足しても困りごとが残ります。
マクロを足しても残る、Excelの困りごと
1. セルを消す・数式を上書きする
Excelは、どのセルにも何でも書けるのが良さです。その良さが、会社の表では事故の元になります。たとえば、合計の数式が入ったセルに数字を打ち込んでしまう。行を消したら、別のシートの集計がずれる。マクロが決まった列を読みにいく作りなら、誰かが列を1つ足しただけで、マクロが違う所を読むようになります。
シートの保護で守ることはできます。ただ、直したい所が出るたびに保護を外し、そのまま戻し忘れる。何人もで使う表では、よく起きることです。
2. 間違いに、誰も気づかない
Excelには「入力規則」という、決まった値しか入れられないようにする機能があります。ただ、Microsoftの説明のとおり、入力規則が効くのはセルに直接打ち込んだときだけです。別の表からコピーして貼り付けた値や、下へ引っ張ってコピーした値では、警告は出ません。すでに入っている間違った値があっても、Excelのほうから知らせてはくれません。
日付が文字として入っていて集計から漏れる、入れるはずの欄が空いたまま。こうした間違いは、月末の締めや、お客様に書類を出したあとで見つかります。
3. 直せる人が1人しかいない
マクロは、作った人しか中を読めないことが多い道具です。AIに書かせたマクロは、頼んだ本人も中身を読めていないことがあります。動かなくなったとき、AIに聞き直すことはできます。でも、どこが壊れて、直した版で何が変わったかを確かめるのは、人の仕事です。
しかも、マクロの動く場所は限られます。ブラウザで開くExcelでは、マクロは動きません。Windows版のExcelでは、2022年から、メールやインターネットで受け取ったファイルのマクロが最初から止められるようになりました。取引先や別の拠点とマクロ付きのファイルをやり取りする仕事は、年々やりにくくなっています。
アプリにすると、何が変わるか
ここでいうアプリは、会社の仕事に合わせて作る、ブラウザやスマホで開く業務アプリです。Excelとの違いは、入れる場所と入れ方を、作るときに決めておけることです。業務アプリは、次のことがそろうように作ります。
間違いが入りにくくなる
- 消えない:入力するのは決められた欄だけにします。計算の式は、使う人が触れない所に置きます。行を消して集計がずれることも、数式を上書きすることも起きません
- その場で気づける:日付の形、数量の範囲、入れ忘れを、保存する前にアプリが確かめて止めます。貼り付けた値も同じように確かめます。月末ではなく、入力したその時に直せます
- 誰がいつ変えたかが残る:あとで数字が合わないとき、どこで変わったかを追えるように作れます
共有と保管が楽になる
- ファイルがなくならない:データは1か所にあり、皆が同じものを見ます。「最新版_修正2.xlsx」がどれか分からない、担当者のPCにしかない、上書き保存で前の中身が消えた、ということが起きません
- 何人でも、どこからでも:同時に何人が入力しても、ファイルの取り合いになりません。現場や外出先からスマホで入力できます
- ひな形とコピーが軽い:よく使う形をひな形として保存したり、前の見積をコピーして新しく作ったりが、ファイルを増やさずにアプリの中でできます。保存したひな形は、そのまま皆で使えます
- PCが重くならない:行が増えたExcelは、開くのも保存するのも遅くなり、固まることもあります。アプリは、そのとき必要な分だけを読み込んで表示するので、データが増えても手元が重くなりにくい。古いPCやスマホでも動きやすく作れます
それでも、Excelがなくなるわけではありません。月の集計を眺めたい人、取引先にExcelで渡す書類もあります。アプリから、いつものExcelの形で出せるようにしておくと、切り替えで困る人が少なくて済みます。Excelは「入力して直す道具」から、「結果を見る・渡す形」に変わります。
実例:月末の集計が8時間から15分に
さいたま市内の中小企業で、月末の勤怠の集計に毎月8時間ほどかかっていました。これを、スマホで出退勤を記録するアプリにしました。集計はアプリが出します。月末の作業は、出てきた数字を確かめるだけになり、15分ほどで終わるようになりました。Excelでの勤怠管理がどこで行き詰まりやすいかは、「Excelの勤怠管理、もう限界かも」と思ったら読んでほしい話に書いています。
担当者さんは打ち込みと計算がなくなり、社長は「締めの数字、まだ?」と聞かなくてよくなりました。入力するのは本人がスマホで押す1回だけなので、写し間違いが入る所がありません。
AIに書かせるなら、マクロよりアプリを
「でも、アプリは高いし、時間もかかるのでは」。ここが、この数年でいちばん変わった所です。マクロを書いてくれるAIは、アプリも書けます。目安として、AXパートナーが開発を代行する場合は5〜50万円・2〜4週間ほど(機能が多いものはご相談)、社員が伴走を受けて自分で作る場合は1人あたり月20万円・標準2ヶ月です(いずれも税別)。
AXパートナーが伴走した会社で、Excelが使えるくらいの担当者さんが、話しかけながらアプリを作れるAIの道具「Claude Code」を使って、見積書と請求書のアプリを自分で作りました。プログラミングの経験はない方です。自分の仕事の手順を言葉にして、AIに頼み、出てきたものを見て直す。それを繰り返しました。
AIにやりたいことを伝えて、出てきたものを見て直す。流れは、マクロを頼むときとあまり変わりません。違うのは、できあがるものが、間違いが入りにくく、皆で共有できる「何人もが使う前提の形」になることです。作って終わりではなく、実際の仕事でしばらく試して、入力のしかたや確かめる条件を直してから使い始めます。
アプリにしても残ること
アプリにすれば全部片づく、というわけではありません。先に知っておいてほしいことが4つあります。
- 直せる人が1人、はアプリでも起きる:AIで作ったアプリも、作った人しか中が分からなければ、マクロと同じことになります。だから、社内に直せる人を育てるか、作った側が直し続ける約束(保守)をしてから使い始めます。AXパートナーが、社員が自分で作れるようになる伴走をいちばん勧めているのは、このためです
- 変えたいときの手間:Excelなら、担当者がその場で列を1つ足せます。アプリでは、変更は直せる人の仕事になります。仕事のやり方がまだ固まっていない作業は、アプリにするのを少し待ちます
- 止められるのは形の間違いまで:入れ忘れや、ありえない日付・数は止められます。でも、ありえる範囲の中の打ち間違いは通ります。最後に人が確かめる所は残ります
- ログインと、誰が何を見られるか:どこからでも開けるぶん、ログインのしかたと、社員ごとに見られる範囲は最初に決めます
Microsoft 365を使っている会社なら、Microsoft Formsで入力して表にためる形もあります。セルを直接触らせないという点では、同じ考え方の第一歩です。入力の画面と保管の場所を分ける。Formsで項目の名前と入れ方をそろえておけば、あとでアプリに移すときも、その項目をそのまま引き継げます。
どの作業からアプリにするか
Excelの表を全部いっぺんにアプリにする必要はありません。次のどれかに当てはまる作業から、1つだけ選びます。
- 何人もが同じ表に入力している:消す・上書きするの事故が起きやすい所です
- 別の表や紙から写している:写すたびに間違いが入る所です
- 間違いが、あとから見つかって困ったことがある:締めのやり直しや、お客様への書類の出し直しがあった所です
- 毎月(毎週)必ずやっていて、手順が決まっている:アプリにした効果が、毎月そのまま返ってきます
1つ選んだら、今のExcelの表を見本にして、入れる項目と、出したい集計を書き出します。アプリにしたあとも、しばらくは今のExcelと並べて数字が合うかを確かめると、安心して切り替えられます。今までのExcelにたまっているデータも、項目をそろえればアプリに取り込めます。文字で入った日付や空いた欄は、移す前に直します。どこまで前のデータを移すかも、このときに決めます。
作り方は、会社によって3つに分かれます。勤怠のように世の中に市販のサービスがたくさんある作業は、まず市販のもので足りるかを見ます。自社のやり方に合わないときは、アプリを作ります。作るのは、社員が伴走を受けながら自分で作るか、開発を任せるか。それぞれの向き不向きと費用は、AI導入の進め方は4つとAI導入の費用の記事にまとめました。
今から移しておく理由:AIに仕事を任せる土台になる
アプリに移す理由は、今の作業が楽になることだけではありません。これから先、AIに任せられる仕事は増えていきます。集計や、数字の変化に気づくこと、次にやる作業の下書きまで、AIに頼める範囲は広がっています。
そのとき、AIが読めるデータがそろっているかどうかで差がつきます。アプリにたまったデータは、項目も形もそろっていて、1か所にあります。ばらばらのExcelファイルだと、AIに頼む前に、どれが最新かを探して、形をそろえるところから始まります。ただし、アプリにまとめただけで、AIが勝手に読めるようになるわけではありません。アプリに移すときに、項目の名前と入れ方をそろえ、AIに渡してよい範囲を決めて、必要なデータを取り出せるように作っておきます。今のうちに入力をアプリに移し、こうして整えておくことが、AIで仕事を変えていく(AX化の)土台になります。
Excelは「見る・渡す」形に。触る作業はアプリへ
AIでマクロを作れば、目の前の作業は早くなります。でも、セルが消える、間違いに気づかない、直せる人が1人しかいない、という困りごとは残ります。何人もが毎月触る表は、入力と更新をアプリに移し、Excelは結果を見る・渡す形として残す。紙とExcelで回していた仕事をこう置き換えていくのが、中小企業のDX化・AX化のいちばん手前にある一歩です。
まずは、社内で「この表、壊れたら困る」と思う表を1つ思い浮かべてみてください。それが、最初にアプリにする作業です。