「AIを入れたほうがいいのは分かってる。で、何からやればいいの?」
さいたま市の中小企業の社長さんと話していて、いちばんよく聞くのがこの言葉です。
ChatGPTやClaudeのアカウントは作った。社員にも「使ってみて」と言った。でも、その先に進まない。生成AIの導入で、こういう会社は少なくありません。
この記事では、さいたま市の中小企業でAI導入の支援をしてきた中で、最初の1つとしてうまくいった仕事の話を書きます。先に言ってしまうと、派手な仕事ではありませんでした。総務・事務の、地味な作業です。
生成AIの導入、「何から?」で止まっている会社が多い
止まっている理由は、AIが難しいからではありません。
道具は入っている。でも、どの仕事に使うかが決まっていない。「何でもできますよ」と言われると、かえって何から触ればいいか分からなくなる。これが実際のところです。
営業・企画から始めると、止まりやすい
社長さんが最初に思い浮かべるのは、たいてい提案書、チラシ、SNSの投稿、アイデア出しです。ChatGPTやClaude、Geminiに文章を書かせる使い方で、AIの紹介記事でもよく見かけます。
実際に触ってみると、それなりの文章は出てきます。ただ、これで仕事が良くなったのかが測りにくい。良し悪しが人の好みで決まる仕事なので、社内で意見も割れます。しかも毎回やることが違うので、やり方として残りにくい。
数週間たつと、使う人と使わない人に分かれて、いつの間にか話題に出なくなる。これまで見てきた中では、この流れがいちばん多くありました。
営業・企画にAIが向かない、という話ではありません。役に立つと感じているのは、文章や資料づくりより、案件がいまどんな状態かを誰でもスマホから見られる画面(ダッシュボード)のほうです。案件の状況が見える化されていれば、誰かに聞いて回らなくても分かる。ダッシュボードの役割はそこにあります。これも会社が楽になる使い方の1つです。
当たりやすかったのは、総務・事務の業務効率化
逆に、最初の1つとしてうまくいきやすかったのは、総務・事務の仕事でした。振り返ると、共通していたのはこんなところです。
- 毎月(あるいは毎日)必ずやっている
- 手順がだいたい決まっている
- 効果が「時間」で見える
こういう仕事は、AIに任せた結果が合っているかどうかを確かめやすい。前は何時間かかっていて、今は何分か。誰が見ても分かります。
社内で「効いたね」と言いやすいのも大きなところです。
実例1:勤怠管理の月末集計が、8時間から15分に
さいたま市内の中小企業での話です。事務所で働く人と、外の現場に出る人がいる会社でした。
月末になると、事務の担当者さんが全員分の出退勤の記録を集めて、Excelで集計していました。これに毎月8時間ほどかかっていた。
そこで、出退勤をスマホから記録できる勤怠管理アプリを作って、集計は自動で出るようにしました。月末の作業は、出てきた数字を確かめるだけになって、15分ほどで終わるようになりました。
楽になったのは、担当者さんだけではありません。
- 担当者さん:月末の打ち込みと計算がなくなった
- 社長:「締めの数字、まだ?」と確認しなくてよくなった
- 会社:集計のやり方が担当者さんの頭の中だけにある状態ではなくなった。人が替わっても回る
地味ですが、毎月必ず来る8時間がなくなるのは大きいです。Excelでの勤怠管理がどこで行き詰まりやすいかは、「Excelの勤怠管理、もう限界かも」と思ったら読んでほしい話にも書いています。
実例2:Excelが使える程度の担当者さんが、見積・請求書のアプリを自分で作った
もう1つは、アプリを「作ってもらった」話ではなく、「自分で作った」話です。
担当者さんは、プログラミングの経験がまったくない方でした。最初にお伝えしたのは「Excelが使えれば大丈夫です」ということくらいです。
使ったのは、話しかけながらアプリを作れるAIの道具「Claude Code」です。最初はAIの使い方から始めました。自分の仕事の手順を言葉にして、AIに頼んで、出てきたものを見て直す。それを、こちらが横について繰り返していきます。
そうやって、見積書と請求書を作るアプリを、担当者さんが自分で作りました。こちらは作り方を伝えただけで、手を動かしたのは担当者さん本人です。
できあがったアプリを見せてくれたとき、担当者さんがとても嬉しそうでした。それを見て、こちらも嬉しくなりました。
見積と請求書も、毎回ある・手順が決まっている・誰かが時間を取られている、という点で、勤怠の集計と同じ種類の仕事でした。
大事だったのは、社内に「AIで作れる人」がいること
勤怠のアプリはこちらで作ったもの。見積・請求書のアプリは担当者さんが作ったもの。どちらも役に立っていますが、その後が少し違います。
担当者さんが自分で作れると、「ここをこう変えたい」が社内で片づきます。いわゆる内製化です。外に頼んで待つ必要がない。次に楽にしたい作業にも、自分で手を伸ばせる。
うちの進め方も、ここを目指しています。担当者さんにAIの使い方を教えて、必要なら業務を伺ってアプリはこちらで作る。そのうえで、最後は担当者さんが自分で作れるところまで一緒に進める、という流れです。
作って渡すだけでも会社は楽になります。ただ、作れる人が社内に1人いると、楽になる作業が1つで終わらない。そこがいちばんの違いです。
AIを前提に仕事のやり方そのものを変えていくことを、最近はAX化と呼んだりします。それも、こういうところから始まります。一度きりの社員研修で終わらせないほうがいい理由も、ここにあります。
最初の1つを選ぶときに、見ていること
相談を受けて最初の1つを一緒に探すとき、見ているのはだいたいこの3つです。
- 毎月(あるいは毎週)必ずやっている
- 手順がだいたい決まっている
- 誰かが我慢してやっている
3つ目がいちばん大事です。「本当は面倒だけど、自分がやるしかない」と思いながら続けている作業です。
そういう作業は、社長さんが思い浮かべるものと違うことがよくあります。担当者さんに直接聞いてみると、意外なところから出てくる。
AIで何をするかを考える前に、社内で誰が何を我慢しているかを聞いてみる。そこから始めた会社が、いちばん早く楽になっていました。