「うちの社員にAIなんて、無理ですよ」
過去半年、商談の最後にこのセリフを聞いた回数は片手では足りません。たいていは社長が半分笑いながら言う。本気でそう思っている人もいれば、自分に言い聞かせている人もいる。
今日はこのセリフが出る会社で何が起きているかを書きます。社長の3パターン、研修費を払って何も残らなかった理由、そして30代後半の事務担当が2ヶ月で変わった話を並べます。
「うちの社員にAIなんて」を言う社長の3パターン
商談で同じセリフを聞くのですが、背景は3つに分かれます。
パターン1:自分がAIを触っていない社長
ChatGPTを開いたことがない。Claude、Gemini、Copilotという名前も曖昧。社員に「無理」と言う前に、自分が試していない。これが半分以上を占めます。
社長の中で「AI=難しい・専門的・自分には関係ない」という像が固まっている。だから社員にも当てはめる。「うちはIT人材いないし、無理だよ」が口癖になっています。
パターン2:若い社員に丸投げして、断念した社長
「うちにも20代の社員いるから、その子に触らせてみたんだけどね」。社長は試した気でいる。ところが現実は、若い社員にChatGPTのアカウントを作らせて「使ってみて」と渡しただけ。業務での具体的なゴールも、つまずいたとき聞ける相手もいない。3週間で社員は触らなくなる。
社長は「やっぱり無理だった」と結論を出す。けれど「無理だった」のはAIじゃなく、社長の渡し方のほうです。
パターン3:過去にIT研修・SaaS導入で失敗したトラウマ社長
5年前、業務改善のためにkintoneを契約した。社員3人を1日研修に出した。3ヶ月使われずに月額が引き落とされ続けて、解約した。あれから「ITは金がかかるばかりで定着しない」が社長の中の結論になっています。
新しいAIの話を聞いても、最初の質問は決まって同じ。「今度こそ、社員は使い続けますか?」
共通するのは「成果が出る前提」が間違っている
3パターンに共通するのは、「研修を受けさせれば社員はAIを使うようになる」という前提です。これがそもそも誤り。
成果が出る前提は、3つ揃って初めて成立します。
ひとつ、社員に「自分の業務」という解くべき課題がある。
ふたつ、その課題を最後まで解ききる「壁を越える伴走者」がいる。
みっつ、業務に組み込む「1本目のアプリ」が完成して、社内で動いている。
このうちどれかが欠けると、研修の中身がどれだけ良くても定着しません。座学だけ与えて社員が動かない理由は、本人の能力でも意欲でもない。前提が3つ揃っていないからです。
1ヶ月座学のAI研修が定着しない理由
世の中のAI研修の多くは座学型です。半日×4回、または1日×4日、最後に「これでAI時代に対応できます」と修了証が出る。
御社が30万円払って、社員2人を出席させて、修了証が会社に届く。気持ちのいいゴール感があります。
問題はその翌週。
社員Aさんは自分のデスクに戻る。ChatGPTのプレミアム契約は会社が用意している。けれどAさんは何を試せばいいか分からない。隣の社員Bさんも同じく研修に出ていたが、業務がちょうど期末で忙しい。「AI触る時間、来月とるね」が交わされる。
来月、Aさんは触らない。3ヶ月後、社長が「あの研修、結局どうなった?」と聞くと、「いや、まだ業務が落ち着いていなくて」と返ってきます。
これが、AI研修費30万円が「何も残らない」未来です。
理由は2つ。ひとつ、座学で学んだ「AIの使い方」と、Aさんの目の前にある「自分の業務」がつながっていない。研修で扱った例題は、Aさんの会社の業務ではないから。ふたつ、研修が終わると伴走者がいなくなる。詰まったときに聞ける相手がいない。3回詰まれば、人は触らなくなります。
研修費を払って、社員の時間も拘束して、3ヶ月後に何も残らない。これが「研修だけで成果が出る」という前提の終着点です。
「1本のアプリを作る」を伴走するとなぜ続くのか
別のやり方があります。座学を中心に置かない。代わりに「社員Aさんが、自分の業務を解くアプリを1本作りきる」を中心に置く。
ここでは、社員Aさんの業務(たとえば日報集計)が、最初から最後まで題材です。教材は使いません。あるのは、Aさんの会社の日報フォーマット、過去のExcel、社長から日報を渡されたときに集計するロジック。
伴走者は週1回90分、Aさんの隣でPCを覗き、つまずいたところを一緒に解きます。AIに何をどう聞けば返ってくるかを、Aさんの業務を題材に体得していく。
3〜4回目、Aさんの中で「これはAIに聞けば解ける」という感覚ができてくる。5〜6回目、画面を一緒に作りながら「ここの集計、こうしたいんですよね?」とAIに伝えるようになる。7〜8回目、社内で日報アプリが動き始めます。
ここで決定的に違うのは、Aさんが触る理由が「研修だから」ではなく「自分の業務を解くため」になっていること。日報集計に毎月8時間かかっていたのが30分になれば、Aさん自身が「これは続けたい」と思います。続ける理由が、本人の中にできる。
これが「マンツーマンで1本を作りきる」教育の中身です。
プログラミング未経験の事務担当が、2ヶ月で変わった話
具体を書きます。仮にBさんとします。
Bさんは内装設備業の事務。電気工事と空調設備を主軸にしている社員12名の会社で、事務歴8年、年齢は30代後半の男性。ExcelはSUMとVLOOKUPまで。マクロは触ったことがない。社長は60歳、もう一人いる事務はパート扱いで週3日。
最初の打ち合わせでBさんに聞きました。「いま、いちばん時間がかかっている業務はなんですか」。返答は「現場ごとの原価集計です」。月末、各現場から上がってくる材料費、外注費、人工の数字をBさんがExcelに転記して、現場別に原価を出す。これに毎月12時間ほどかかっている。手作業の転記が大半でした。
1〜2回目:AIに自分の業務を説明してみる
1回目の90分。BさんのPCにClaude Codeをセットアップ。Bさんは「コードって何ですか」のレベル。それで構わない、と伝えます。1回目は「AIに自分の業務を説明して、何が返ってくるかを見る」だけで終わる。Bさんは画面を見ながら一言。「あ、これ、私の業務が分かってるみたいに返してくる」。
2回目から、原価集計の一部を切り出してアプリの形にしていきます。Bさんはまだコードを書かない。AIに何を頼むか、何を直してほしいかを言葉にする訓練です。
3〜4回目:社長が「お前、何やったんだ」と笑った日
3回目で、Bさんが「あれ、これ、自分で動かせる気がしてきました」と言い始める。
4回目、現場ごとの材料費入力フォームが動きました。Bさんが社長に「ちょっと見てください」と呼ぶ。社長が画面を覗いて「これ、誰が作ったの」と聞く。Bさんが「私です」と答える。社長は3秒固まったあと、「お前、何やったんだ」と笑いました。
5〜8回目:12時間が2時間に
5〜6回目、外注費と人工の入力もアプリに乗ります。集計画面ができる。
7回目、Bさんが自分で改修している。「ここの並びを変えたいんですけど、AIに聞いたら直せました」。
8回目、原価集計アプリが完成して、月末の業務時間が12時間→2時間に圧縮されます。
2ヶ月目の終わり、Bさんはこう聞いてきました。「次は何を作りますか」。
これがいちばん大事な変化です。「教えてもらう側」から「自分で作りたいものを探す側」に、本人の立ち位置が動いている。
Bさんはコードを書くエンジニアになったわけじゃない。AIに何を頼めば自分の業務が解けるかを、感覚で分かるようになっただけ。でも、社内に1人これができる人がいると、会社の景色は変わります。
御社の社員に向く・向かないをどう見極めるか
「うちの社員にAIなんて無理」と思った社長が、最初に確認することは2つです。
ひとつ、その社員は「自分の業務に困っていますか」。
業務を解きたいと思っていない社員に、AIを渡しても動きません。逆に「この業務、なんとかしたい」と思っている社員には、AIは最強の味方になる。BさんはExcel転記に8年付き合って、もう限界だった。だから動きました。
ふたつ、その社員は「業務を分解して考えられますか」。
プログラミング経験は要りません。VBAも書けなくていい。必要なのは、「この業務はA→B→Cの順で処理している」と説明できる力。日々Excelで業務を回している事務担当には、これがすでに備わっています。
この2つに当てはまる社員が社内に1人でもいるなら、その社員は2ヶ月で変わる可能性が高い。年齢は関係ありません。Bさんは30代後半、過去には50代の事務担当が動いた例もあります。
逆に向かないのは、「言われたことを言われた通りにやるのが好き」な社員。これは本人の個性であって、能力の問題ではない。教育プランはこういう社員には向きません。だから無料相談の30分で、御社の社員像を聞いて、向くかどうかを正直に伝えます。
「うちの社員にAIなんて無理」と諦める前に、社員1人の業務と性格を冷静に並べてみてください。そこに当てはまる1人がいるかどうかが、2ヶ月後の景色を決めます。
このまま3年経ったときに、社内に何が残っているか
「うちの社員にAIなんて無理」と言い続けた3年後、社内に何が残っているか。
業務は紙とExcelのまま。外注に毎年数十万円払って、社員は誰一人新しい武器を持っていない。社長自身も、AIをまだ触っていない。「人手不足」の声は、3年前と同じトーンで会議に出てきます。
別の道を選んだ会社では、2ヶ月後にBさんが原価集計アプリを動かしている。3年後には2本目、3本目を社内で作っている。新しい業務が出るたびに、Bさんが翌週に叩き台を出してくる。
分かれ目は、社員1人の業務と性格を、社長が一度、冷静に並べたかどうか。それだけです。
「うちの社員にAIなんて無理」を、もう一度だけ、社員の顔を思い浮かべながら言ってみてください。本当にそうかどうか、30分の相談で答えが出ます。